組織で働いていると、「評価されたい」「認められたい」と感じることがあります。これは承認欲求と呼ばれるもので、仕事の原動力になる一方で、心の静けさを乱す要因にもなり得ます。
他人から肯定的な評価を受けたい、否定的な評価をされたくない、自分を価値のある存在だと思いたい、という欲求。(デジタル大辞泉)
新入社員の頃は、覚えることも多く、がむしゃらに働く日々です。少しずつ成果が出て周囲に認められると、それが励みになります。しかし、経験を重ねるにつれ、同じような感覚ではいられなくなることがあります。
私自身、新入社員の頃は承認欲求に強く影響されていました。あるプロジェクトチームに配属され、右も左も分からないまま客先対応に追われていた時期です。急な仕様変更の依頼が入り、チームリーダーから「この部分、期限までにまとめてほしい」と課題を任されました。
当時の私は「期待に応えたい」「認められたい」という思いが強く、できるかどうかよりも、とにかくやらなければという気持ちでいっぱいでした。毎日終電近くまで残業し、資料を作り直しては確認し、修正を繰り返す日々。なんとか期限内に対応しきったとき、リーダーから「よくやったな」と声をかけられ、とても嬉しかったのを覚えています。
しかし今振り返ると、あの頃の私は完全に“外側のモノサシ”で自分を測っていました。誰かの評価を追いかけることでしか、自分の価値を感じられなかったのだと思います。
承認欲求は「外側のモノサシ」で生きること
「認められたい」と願うとき、私たちは自分の価値を他人の評価という“外側のモノサシ”に委ねてしまいがちです。褒められれば安心し、批判されれば不安になる。これでは、自分の人生のハンドルを他人に預けているようなものです。
承認欲求が強くなると、他人の反応を追い続けることになり、心が常に渇いた状態になってしまいます。
なぜ「結果」を出しても満たされないのか
仏教の「諸行無常」という言葉の通り、評価は移ろうものです。どれほど大きな成果を出して称賛されたとしても、その評価は時間とともに過去のものになります。そしてまた次の評価を求めて、心の渇きが戻ってきます。
どれだけ外側から褒め言葉を注ぎ込んでも、心の空洞が満たされるとは限りません。評価は積み上がるものではなく、流れていくもの。この性質を理解することが、承認欲求のループから抜け出す第一歩です。
「認める」の主体を自分に戻す
では、どうすればいいのでしょうか。鍵は、認める主体を「他人」から「自分」に戻すことです。
他人の評価よりも、自分が仕事にどう向き合ったか。誠実に取り組めたか。納得できる行動ができたか。その自分自身への問いかけを大切にすることです。
自分で自分を認められるようになると、他人の評価は“おまけ”のような位置づけになり、過剰な渇きから自然と距離が取れるようになります。
組織構造からくる承認欲求のメカニズムを理解する
組織には、承認欲求が強まりやすい構造が存在する場合があります。特に次の3つが重なると、心理的な負荷が高くなりやすいと感じます。
- 指示系統が強く、上意下達の傾向がある
- 上司が人事評価の権限を持っている
- 部下の立場が相対的に弱い
多くの組織では2と3は一般的な構造です。そのうえで1の強さがどう影響するかが重要になります。
例えば、指示の伝え方が過度に厳しかったり、価値観の押し付けに近い形になっていないか。1が強すぎると、部下が必要以上に評価を気にし、承認欲求が高まりやすくなることがあります。責任感の強い人ほど、自分を責めやすくなる傾向があり、精神的な負荷が大きくなる可能性があります。この構造を理解するだけでも客観的に状況をとらえることができると思います。
結び:評価という波に揺られない心
周囲が評価してもしなくても、自分の足元には変わらず静かな海が広がっています。承認欲求という波に振り回されず、自分の中心を保つこと。その静けさを守れる強さこそが、組織の中で誰にも左右されない信頼を築く力につながっていくのだと思います。


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